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大企業においては、2010年4月から月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられておりましたが、いよいよ来年4月から中小企業にも適用されます。法改正の内容と必要な対応について解説します。
使用者は、原則として労働者に、1週間に40時間、1日に8時間(法定労働時間)を超えて労働させてはならず、また、毎週1日(または4週4日)以上の休日(法定休日)を与えなければならないとされています。(労働基準法第32条、同法35条)
ただし、当該事業場で労働基準法第36条による時間外・休日労働に関する協定(いわゆる36協定)を締結した場合は、法定労働時間を超えて、または法定休日に労働させることができるとされています。そして、使用者が時間外・休日労働をさせた場合は、労働者に対して、通常の賃金を割増した賃金(割増賃金)を支払う必要があります。また、午後10時から午前5時の深夜時間帯に労働させた場合も、深夜労働に対する割増賃金の支払いが必要になります。
その際の割増率を「割増賃金率」といい、労働基準法第37条で次のように定められています。
中小企業については経営体力が必ずしも強くないため、経済的負担を考慮し、法律の適用が猶予されていました。しかし、その猶予期間が2023年3月までで終了します。なお、中小企業に該当するかどうかは、次表の①または②を満たすかどうかで企業単位で判断されます。
それでは、月60時間の算出はどのようにするのでしょうか。1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計して60時間を超えた時点から50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。なお、法定休日に労働した時間については、時間外労働時間にはならず、休日労働時間となりますので、算出からは除外します。
なお、変形労働時間制等導入されている場合は、時間外労働時間数の取り扱いが異なりますので確認が必要です。
また、月60時間を算出する起算日については、必ずしも1日からとする必要はなく、行政通達(平21・5・29基発第0529001号)では、次のとおり取り扱うこととされています。
実務上は、管理のしやすさを考え、給与計算期間の初日、36協定の起算日、就業規則の定めについて、統一されることをおすすめいたします。
企業として必要な対応については、次のとおりです。
月60時間超の時間外労働時間が現在使用しているタイムカード等にて正しく集計されるか今一度確認をしておきましょう。また、月の時間外労働時間が60時間超の労働者が多くいる場合は人件費の負担の増加が見込まれますので、労働時間削減の対策が必要です。
給与計算システムの割増率の設定が必要になります。設定が可能か、今のうちに確認しておきましょう。
割増賃金率は、就業規則の必要記載事項である「賃金の決定、計算及び支払いの方法」に該当することから、就業規則(賃金規程等を含む)の改定が必要です。
労使協定を締結することで、割増賃金率の引き上げ分(25%)の支払いに代えて代替休暇(有休)を与えることができます。代替休暇の対象となるのは月60時間超の時間外時間となりますので、時間外労働が多い場合は制度導入も検討されてみてはいかがでしょうか。
労働能率の増進のために設備・機械、労務管理用のソフトウェア等、導入する場合があるかと思います。その際は「働き方改革推進支援助成金」が使用できる場合もありますので、確認しておきましょう。
中小企業の猶予措置の廃止までは、あと半年を切りました。現在月60時間超の時間外労働が行われている企業では、このままですと人件費の負担が増加することになります。今のうちから、業務内容の確認や見直しをし、時間外労働を削減する意識を持つことが必要であるといえます。
松田法子
人間尊重の理念に基づき『労使双方が幸せを感じる企業造り』や障害年金請求の支援を行っています。
採用支援、助成金受給のアドバイス、社会保険・労働保険の事務手続き、給与計算のアウトソーシング、就業規則の作成、人事労務相談、障害年金の請求等、サービス内容は多岐にわたっておりますが、長年の経験に基づくきめ細かい対応でお客様との信頼関係を大切にして業務に取り組んでおります 。