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2024.10.04社会保険ワンポイントコラム
時代の変化とともに、働き方も多様になるとともに、「働く動機も多様」になってきています。
賃金などの条件も重要な動機の一つですが、他にも「ストレスを抱えない職場の人間関係」「ワークライフバランスの重視」などが挙げられ、さらには「自己が成長できる場」として『能力開発』も主な動機の一つになってきています。
今回は、自己啓発を軸に、会社の「能力開発」の仕組みづくりを考えていきます。
厚生労働省「令和5年度能力開発基本調査(以下、厚労省調査)」の中から社員個人へ調査を行った「自己啓発を行う上での問題点」を取り上げます。
※「自己啓発を行う上で問題がある」とした個人の問題点の内訳
問題点の内容 | 正社員 | 正社員以外 |
---|---|---|
仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない | 60.00% | 37.10% |
家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない | 28.20% | 32.20% |
費用がかかりすぎる | 27.80% | 28.50% |
どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない | 25.10% | 26.60% |
自分の目指すべきキャリアがわからない | 21.10% | 23.80% |
自己啓発の結果が社内で評価されない | 18.10% | 10.70% |
適当な教育訓練機関が見つからない | 15.00% | 18.00% |
コース等の情報が得にくい | 12.50% | 16.00% |
コース受講や資格取得の効果が定かでない | 12.50% | 11.70% |
休暇取得・定時退社・早退・短時間勤務の選択等が会社の都合でできない | 9.60% | 8.5% |
その他の問題 | 4.2% | 9.20% |
回答割合が多かった問題点の内容を、次のように「5つの理由」として整理してみます。
それでは、自己啓発を行う上での問題点を整理した「5つの理由」を手掛かりに、能力開発に関する社内の仕組みづくり『4つのポイント』をお伝えします。
『理由①:費用負担が大きい』については、雇用保険「教育訓練給付制度」などの情報を周知することが考えられます。給付制度を受けても費用負担が大きいと感じる従業員もいるかもしれませんが、毎月保険料を納入している雇用保険の給付を活用するため、従業員が自己啓発への関心を高めることも期待できます。
また『理由②:情報資源』については、以下のようなサイトを紹介することも効果的です。
『理由③:キャリアへの不安』については、「自己啓発」を育児・介護などと同じようにワークライフバランスの‘’ライフ‘’として捉えていきましょう。
その一つの具体例として、「自己啓発に関しての相談窓口」を設置するなどです。
例えば職業能力開発促進法で定められている『職業能力開発推進者』を窓口担当者とし、自己啓発に関わる情報提供などの役割を担うことも考えられます。
また『キャリアコンサルタント』を窓口担当者とすれば、個々の従業員の実情に沿ったキャリアプランを立てることにもつながります。
『理由④:余裕がないこと』にある「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」場合でも、生涯にわたってのキャリアプランを立てることができれば、計画的な自己啓発を進めることへつながっていきます。
理由として最も多かったのが『理由④:余裕がないこと』にある「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」です。
日々の業務などに追われてしまうと、時間的・精神的にも余裕がなくなってしまいます。
一方で、自己啓発に関して、●時間以上学ぶ・必ず資格を取るなどの定義があるわけではありません。実際に厚労省調査で最も多かった自己啓発の実施方法の回答は「eラーニング(インターネット)による学習」です。いろいろな方法で、学びが仕事の成果に結び付くことが「自己啓発」の大きな意義です。
例えば、自己啓発に関して「休暇制度」「受講料補助」などを設ければ、会社として明確な「自己啓発の方針」になります。
しかし、制度などの実現が難しい場合でも、身近なことから実践できる方向性を示す(お勧めの書籍・TV番組を紹介するなど)だけでも、従業員にとって「自己啓発へのハードルを少しでも低くする工夫」により、従業員が学びに関して主体的な動機を持つことへつながっていきます。
今まで「自己啓発」を中心にお伝えしましたが、「OJT」「OFF-JT」と相まってこそ、会社としての「能力開発の仕組み」といえます。
仕事を通じて知識・技術などを身に付ける「OJT」、仕事から離れて知識・技術などを身に付ける「OFF-JT」に加えて、能力開発を促進する「自己啓発」というのが基本的な捉え方かもしれません。
しかし「自己啓発」を軸にして、自己啓発で学んだことを実践する「OJT」、自己啓発で学んだことを整理するための「OFF-JT」と捉えることで、従業員の動機付けに基づき、個々の従業員の能力を促進する捉え方もできます。
自己啓発での学びが仕事の成果に結び付くための仕組み、そして『理由⑤:会社の評価』にあるような自己啓発を会社として評価できる仕組みができることが、会社としての「能力開発の仕組み」の礎となっていきます。
社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの様々な業務に携わり、特に福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。現在は厚生労働省委託事業による中小企業の労務管理に関する相談・改善策提案などを中心に活動している。